顔のコリ(口角下垂)
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顔のコリ(口角下垂)の概念
口角下垂は口もとの筋肉がこわばって口角が下がった顔のコリの症状です。
コリが解消されると自然に口角挙上が挙上します。
よく考えてみるとご理解を言頂けると思いますが、何も原因がないのに、口角が下垂することはありません。筋肉の過剰な運きを誘発する何らかの動きが原因です。直接的な原因は口角下制筋(三角筋)の過緊張(コリ)が原因です。この症状を単なる加齢現象や見た目だけの口角の下垂と判断しないで、口角下制筋の過剰な緊張状態を生じさせているあごのコリとして原因を追究することが大切です。
この点、もっとも影響をするのが、かみ合わせの状態、噛み合わせの高さの確保です。つまり、かみ合わせが悪いから、顔の筋肉に力が入ってしまい、顔の筋肉が凝ってしまっているのです。咬合高径の低下による日常的な口角下制筋の緊張、オトガイ筋の緊張を生じている患者様は非常に多く、かみ合わせ状態が原因の上下口唇の変形(口角下垂)は老若男女問わずよく見られる症状です。口角の極端な下垂は、顔コリ症状としてのマリオネットラインの原因となり、オトガイ筋の緊張を併発します。
口角の下垂、マリオネットラインの出現、オトガイ筋の緊張による凸凹(こぶ状のしわ線)はどれも、顔コリの症状であり、これらの症状が下顔面に認められた場合は、不正咬合のサインと言えます。
口角下垂を改善する適応症の患者様
可動時と静止時の顔コリとしての口角の状態を診察し、静止時においても口角の下垂が生じている場合は、コリの原因筋肉の特定をおこなう。
主に上唇挙筋群または、下唇下制筋群である。原因は咬合高径の低下が最もよく見られる症状である。オトガイ筋の緊張が併発しているかどうかも大切な診察ポイントである。
顔のコリは口腔内の症状(咬合関係、欠損関係、咬合高径関係など、)に起因する下顔面の症状と、{SMAS(superficial musculo-aponeurotic system)}層の萎縮、顔面筋の廃用萎縮、皮膚伸展度の減少など}を判断し、口腔内症状に関連していない症状に対しては、他の治療方法や隣接領域の診療科ドクターに対診を求めている。 見た目の改善、美容液改善を求め、口角を上げたい患者様にも適応している治療方法である。
治療に必要な人体解剖、筋肉の走行関係、側頭筋の支配神経
口唇周囲筋はいくつもの層によって構成されている。口角下制筋や下唇下制筋、オトガイ筋が主な筋肉であるが、オトガイ領域の中でも口角下制筋は最も浅い層に位置する顔面筋である。口角下制筋が緊張すると、広頚筋とともに緊張し、口角は下方に牽引される。
口角下制筋は広頚筋、下唇下制筋と連動する。また、口角下制筋は三角筋とも呼ばれ、下顎骨下縁の上下高の中央部から生じ下唇下制筋の起始部がまじりあいながら、停止を口角に集中させて口角皮膚、口輪筋の口角部、口角挙筋、頬部に分布していく。下顎骨を底部にする三角形を描く筋肉である。拮抗筋は大頬骨筋、口角挙筋である。支配神経は顔面神経下顎縁枝である。
顔のコリ(口角下垂)の治療計画
治療目標は、口角を下垂させてしまった筋肉による顔コリの解消である。口角下制筋、下唇下制筋のスパスムやMPD症状を触診して、筋肉の緊張程度を把握する。静止時に口角が上下口唇の位置に対して水平、またはやや挙上した状態が理想である。
症状に応じた適切な製剤濃度を使用し、口角下制筋と協調して動く。広頚筋を含めて、過緊張状態の筋肉を弛緩させることで口角の挙上が可能である。
副作用 | 口輪筋や下唇下制筋、オトガイ筋、口角下制筋に薬剤が浸潤すると、下唇が左右非対称な状態となる。過剰な濃度の適応は、口唇の閉鎖不全や口腔前庭の食物残渣の停滞、よだれなどの機能不全を引き起こす。 |
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併用療法、 関連領域 |
口腔再建治療(咬合治療、欠損補綴、咬合高径治療、顎位の診断と治療)、Filler注入療法 |
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顔のコリ(口角下垂)の治療の流れ
下唇下制筋群のスパスムの有無、顔コリ症状を触診する。マリオネットラインが併存して認められる場合は、マリオネットライン線上で口角下制筋の外側を目指す。口輪筋に直接的な作用が及ばないように口角よりも10mm下方を目指す。口角下制筋を覆う広頚筋も同時に治療をおこなう。
1. マーキング
注射に際して安全な領域を図示する。BTXを作用させる筋肉は口角下制筋である。左右の口角と口角から下顎骨下縁に垂線を下した点が口角下制筋の起始の近心点とする。口輪筋深部を走る下唇下制筋にBTXが及ぶと食物残渣の原因になるので、注意が必要である。
2. 基準点の確認と注射デザイン
左右口角から下顎骨下縁に垂線を下した下顎骨上を図示する。口角から水平に横に10㎜の部位にマーキングし、その点から下顎骨下縁方向に20mm垂線を下した点にマーキングを行う。
この点が口角下制筋の中央にあたる。口角の下垂状態の改善、口角の挙上を目指す場合などには、口角から下顎骨下縁に垂線を下し、下顎骨下縁に沿って後方に20㎜の点にマーキングを行う。この点が口角下制筋のおおよその起始部の筋肉の中央にあたる。簡易的に鼻翼と口角を結んだ線が下顎骨と交差する点を目安にする方法もある。
3. 基準点と筋肉の動きの確認
両側の口角下方に、両側人差し指を乗せ、患者に上下口唇を横に伸展するように指示する。外側10㎜と下方10㎜の位置左右2ヵ所にもっとも筋肉の動きが強い部位を触知できる。マーキング部位と筋肉の動きが強い部分が一致しているかどうかを目視で確認する。
4. 冷罨法と表面麻酔
注射の際の痛みの軽減のために、患部の冷却とクリームとシールの表面麻酔をおこなう。
5. 消毒
術野の消毒を行う。刺入点を中心に同心円状に消毒する。
6. 刺入、注入、注入深度
刺入角度は90度を保つ。針のカット面は上向きにする。マーキングした2ヵ所に各0.1mL(2.5単位)ずつ合計0.2ccの5単位を注射する。使用する針は34G、4㎜を使用する。口角の挙上を目指す場合は、口角下制筋の起始部に2ヵ所、停止部に向かう中央部に2ヵ所の合計4ヵ所に注射する。刺入深度は個体差があるが、4㎜の針を使用する場合は、針がすべて刺入された状態まで刺入する。
口角下制筋は表層を走る非常に薄い皮筋である。口輪筋や笑筋、下唇下制筋や広頚筋とも複雑に絡み合う。薬剤の他部位への漏出、浸潤は近傍筋への思わぬ副作用を誘発する。注入する濃度と部位を再確認し、適量の注入を心がけたい。
7. 術後冷罨法
とても簡便ではあるが、実施することで術後の内出血の予防と疼痛の軽減に有益である。
顔のコリ(口角下垂)の治療に際して注意する解剖組織
■ 口輪筋
■ 笑筋
■ 下唇下制筋
■ 大頬骨筋
■ 口角挙筋
■ 上唇挙筋
■ 下唇動静脈