顔のコリ(口のしわ)
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顔のコリ(口のしわ)の概要
顔にはたくさんの筋肉があり、毎日の生活の中で肩こりと同じように「凝っています」。
口周りに出るしわは、しわではなく、口もとの筋肉がこわばってしまった「顔のコリ」の症状です。
口の周りとは、鼻の下、口角、くちびる周りをさします。歯ぐき(歯肉)、歯を支える骨(歯槽骨)、歯周組織の老化や萎縮、口輪筋に代表される口唇周囲の表情筋の老化や萎縮、皮下表層脂肪の下垂、減少、支持靭帯の弛緩に起因して、顔の筋肉は凝ります。
唇の縦しわ、扁平化、キューピット弓の平坦化、人中の消失は、歯や歯を支える骨、歯槽粘膜の形は顔のコリが影響しています。 顔のコリである口唇周囲の縦しわ(ちりめんじわ)は、かみ合わせ、歯の欠損状態や歯槽骨の吸収状態と口輪筋を中心とした、口周囲の顔面筋の緊張やこりの表れであり、BTX治療が良く効きます。
外れやすい入れ歯は、入れ歯の適合の改善だけでなく、口もと周囲の表情筋の緊張状態が入れ歯の安定に関与しており、症状に応じたBTX製剤を使用して、入れ歯の安定を図っています。口唇周囲筋は皮膚と口腔粘膜の中に放散しています。
この解剖学的な状態は、筋肉のコリにより皮膚と筋肉にずれが生じ、この皮膚と筋肉のずれが、顔のコリ、しわや溝となって顔に表れています。単純な老化によるシワではありません。口唇周囲筋は非常に薄く、筋肉の厚みはいくつもの階層に走行し、まるでケーキのミルクレープの状態になっています。
また、口輪筋をはさんで口腔粘膜と皮膚が表裏一体となっているため、口腔粘膜の薄さ、皮膚の薄さが口唇の動きに直結した結果、顔がコリ、しわをつくるのです。口輪筋のコリは巾着様の収縮によって口唇の縦しわとなって現れます。
患者様はこのような状態が老化現象によって引き起こされていると考えがちですが、これも顔のコリの症状です。この部位での日常生活の不自由さや支障は、見た目のしわやタルミと咀嚼、発音など機能面の両面です。
顔のコリ治療を適応する患者様
口唇の周囲のコリに対するBTXの適応症状は、口唇周囲皮膚の凹凸や、口裂周囲の表情筋のスパスムである。口唇周囲へのBTX治療は、口輪筋の括約筋としての機能を温存したうえで、顔のコリ症状を改善することが大切であり、機能面と審美面の両面へのアプローチが大切な領域である。口唇周囲の筋肉の過剰収縮、顔のコリは、加齢現象だけで説明できるほど、単純なものではない。
かみ合わせ、入れ歯、かぶせ物や詰め物の異常を見つけ、顔の皮膚や筋肉にいかなる影響を及ぼしているのか診断が必要である。合わない入れ歯や口もとを動かすクセは個人差があり、上唇挙筋群、下唇下制筋群、オトガイ筋や口輪筋に過剰運動を生じさせ、顔のコリ、顔のしわに直結する。
義歯や歯科補綴治療で対応可能な状態や症状もあるが、義歯やブリッジ、クラウンなどの補綴物で対応できない顔面筋の過剰な収縮やコリ症状にはBTXは有効である。
顔コリ症状改善に必要な人体解剖、筋肉の走行、筋肉の支配神経
口輪筋は口裂をとりまく輪状筋である。輪状ではあるが、筋繊維組織が何層にも重なりあい、この筋繊維が周囲の筋繊維と交錯するので、口輪筋は輪状のものだけではなく上下左右の4部構成である。
この他の構成として、唇部、縁部に分けることが出来る。口角部では様々な筋束が交錯し、結節状をなしていて、modaiolusと呼ばれる解剖構造がある。唇や鼻、頬、首、眼の周りの筋肉と連動し唇がさまざまな方向に動く役割を担う。 支配神経は顔面神経頬筋枝、下顎縁枝である。
顔のコリ(口のしわ)の治療計画
口唇周囲筋へのBTX-Aの適応は、低濃度の注射を心がけ、腔周囲筋の機能性が落ちない程度に顔のコリが改善され、見た目と機能面の改善を導くためである。食べる、飲み込む、吸う、咀嚼する、話す、表情を表すなどの重要な機能と審美面の配慮をおこなう。
口輪筋のコリを完全に除去するのではなく、深層筋の収縮力は残したうえで、浅層筋のゆるみを利用してコリやしわの発生防止を図る。このような治療をおこなえば、深層筋は収縮できるため、顔面筋の収縮機能は温存される。前述の歯科補綴治療に加えて、赤唇や白唇へのフィラー注入などの注入療法を併用することが推奨されている。
治療のポイント
・顔のコリがない、上口唇のしわにはFiller療法やCell-free療法がfirst choice
・BTX-Aは少量を浅い層に
・BTXとFillerの同時注射はしない
副作用、 副反応 |
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併用療法、 関連領域 |
機能面と審美面を両立させることが最も重要である。可動時と非可動時の診察は必須である。口腔内の状態が顔面筋の過剰運動、過剰収縮を及ぼし、顔のコリ、しわ線に影響する。 口周りに生じるしわの典型的な一例としては、筋圧中立帯を超えた義歯である。不適合な義歯は、義歯を安定させるために、口輪筋周囲筋が過剰緊張に陥っていることが多い。 また、奥歯の遊離端欠損など、咬合高径低下は、口元周囲筋の緊張や弛緩を誘発し、顔のこり、しわやたるみとなっている。上顎前歯部の補綴物のクラウンの角度や、義歯の人工歯配列の位置や角度が顔のコリ、顔面筋のスパスム、口唇周囲のしわやたるみに影響している。 このような患者様の口裂周囲筋にはスパスムを触知できる。状態に応じた注入量のさじ加減が重要である。 |
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顔のコリ(口のしわ)の治療の流れ
1. デザインと刺入点
2. 注射部位のマーキング
・人中を除外(キューピット弓の消失を避ける)
・左右口角から1cm内側(口角下制筋への浸潤を避ける)を除外
・刺入深度は真皮直下または口輪筋表層
・刺入点は4か所
・赤唇縁から5mm外側(上唇挙筋群への浸潤を避ける)に設定
3. デザイン
患者様に口をすぼませて頂いたり、尖らせる動作をおこなって頂く。動的、静的な動きを観察する。顔のコリやスパスム、できたしわを観察すると、しわとしわの間にできた隆起にスパスムを触知できるので、しるしをつける。
赤唇縁より5~7㎜の安全域を設定する。口角から10㎜の位置にマーキングする。口角部分は笑筋や大頬骨筋、口角下制筋への影響が大きい領域である。副作用を最小限にとどめるために清く注射範囲から除外する。この部分へ薬剤が漏出すると口角の下垂を引き起こす。刺入深度は括約筋としての機能面を温存するためにできるだけ口輪筋最表層、もしくは真皮層直下がよい。
4. 冷罨法と表面麻酔
注射の際の痛みの軽減のために、患部の冷却とクリームとシールの表面麻酔をおこなう。
5. 消毒
術野の消毒を行う。刺入点を中心に消毒する。
6. 刺入、注入、注入深度
針のカット面は上向きにする。(痛みの軽減)マーキングした4ヵ所に各0.1mL(2.5単位)ずつ合計0.4ccの10単位を注射する。使用する針は33G、4㎜を使用する。刺入する角度は皮膚に対して90°を保持する。患者様に口唇の力を抜いて頂き、マーキングした部位の組織をつまむ。
または、口腔粘膜に指を添えて伸展する。刺入深度は個体差があり、使用する針によっても異なるが、4㎜の針を使用する場合は、針がすべて刺入された状態まで刺入する。本部位はできるだけ浅層に注入することが肝要である。
7. 術後冷罨法
術後の痛みの軽減と内出血の予防をおこなう。
上唇部の口輪筋への注射に際して注意する解剖組織
■ 口唇動静脈
■ 上唇鼻翼挙筋
■ 上唇挙筋
■ 頬骨筋
■ 笑筋
■ 口角下制筋
■ 口角挙筋
■ オトガイ筋
■ 下唇下制筋
顔のコリ(口のしわ)に関するコラム
口唇および周囲組織における審美治療の総合診断と注意事項
この領域の治療は赤唇のボリューム、上方向への反転形態、白唇の反転の程度、粘膜と皮膚のボリューム、バーミリオンボーダーの程度、鼻柱から赤唇縁までの距離、人中の形態や明瞭度などに加えて、補綴物の状態や人工歯の配列、角度、位置、咬合高径など総合的な診察が要求される。
口輪筋は非常に薄い表情筋であり、他の上唇挙筋群と複雑に絡み合っている。1ヵ所への過量な注入は他部位への浸潤をまねき、近傍筋へ思わぬ副作用を誘発するので注意が必要である。